「マスターテープに入っている音を、そのまま全部聴きたい」という自分の願望は、メディア(ディスク)に起因する「制約」がある限り、それを満たすのは難しいと思っています。
「30cmLP」の時代には、レコード盤の「音溝の制約」がありました。 「RIAA カーブ」に頼っても物理的に音溝を深くできないことから、一定以上のダイナミックレンジを確保できませんでした。 Compact Disk(CD)にも、直径12cmの円盤の中に「74分」の音楽を収める必要上、周波数レンジとダイナミックレンジを拡大できないという「制約」があります。だから、いくら「優秀録音のCD、SHM-CD、XRCD」を入手しても、ただ単に「制約の中で遊ばせてもらっているだけ」という気がします。
この様な「制約」を避けて通れなかったのは、これまで音楽データを頒布する手段が「ディスク」に限られていたためで、やむを得なかったのですが、最近では多少、状況が改善されつつあります。
しかし、DVD-Audio盤はSACDとの競争に敗れ(?)、すでに供給が途絶えています。SACDは、過敏なまでに「複製」を警戒する日本のレコード会社のせいか、CDトランスポートとDACの組合せを全く変更できないという、オーディオマニアにとって大きな「欠陥」があります。 オーディオマニアの「楽しみの一つ」を最初から奪った愚かな設計となっていて、これではオーディオマニアにソッポを向かれても当然、SACDを買うのは音楽ファンよりも、むしろオーディオマニアの方だから、販売数が延びないのも当然、、、SACDもいずれは消え去るだろうという噂がもっぱらです。(こんなことなら、SACDなど初めから世の中に出さずに、DVD-Audio盤に残って欲しかった。)
オーディオは純粋に趣味の世界なのだから、こういった世俗の「制約」などを受けず、心から音と音楽を楽しみたい。過去の偉大なプレーヤー達が残してくれた名演奏、会場の興奮と熱気と、そしてその場の空気感、それが入っているマスターテープの音楽情報を余すことなく聴きたい。 現在、これを実現する手段の一つが「High-resolution」の音楽データの配信、再生だと思います。
しかし依然として、問題は根本的には解決されていません。SACDの販売数を増やすのを諦め切れない(?)のか、大手レコード・メーカーが抱え込むメジャー・タイトルのアルバムが「192kHz/24 bit」でダウンロードできるまでには至っていないのです。(昨年、素晴らしいことに、Miles DavisのRelaxin'だけはHDtracksに登場しました!)
例えば「Miles Davis」の主要なアルバム群は、依然としてSACDに留まったままです。かといって今更、情報量の乏しいCDやXRCDを新規に買い足すつもりはありません。そのCD再生のために今更、百万円を超えるようなCDプレヤーを買うつもりもありません。 しかし、待てど暮らせど、High-resolutionの音楽データは出て来ていません。 出すのか出さないのか、、、いつまでも我慢大会をしている時間は私にはないのです。
そこで、SACDのDSD信号から直接、PCMデータを取り出すことを始めました。これなら、DVD-Audio盤と同等の96kHz/24 bitの音楽データを聴けるからです。(192kHz/24 bitも可能なのですが、残念な事に、我家のDEQXが96kHz/24 bitまでなのです) デジタル・リッピングするには手間と時間がかかりますが、それによって「マスターテープ」により近づいた素晴らしい音と感動が得られるなら、何でもないことです、オーディオは趣味ですから。
iPodの中にあるAACファイルでも「音楽」は十分に楽しめるでしょう。 しかし、せっかく趣味でオーディオをやっているのだから、まるで1950年代のNYマンハッタンの、最高に熱かった地下のジャズ・クラブの最前列のテーブル席にワープした様な、そんな臨場感溢れるライブ録音の音が自分のオーディオ・ルームで再生できたら、どんなに素晴らしいことでしょうか。 そのために、限りなくマスターテープに近い音を聴きたいと願っているのです。