MilesTAD’s Blog

自分の一生涯の趣味として続けているオーディオのブログです。

エンクロージャーの調整(3)試聴

 

 

 2日間を費やしてエンクロージャー内部の吸音材を半分まで減らしてみたものの、TRINNOVの測定データには、期待した程には大きな差異は見られませんでした。

しかし聴感上の違いは考えていた以上に大きいです。「たかが吸音材」の調整で、こんなにも音が変わるのか、と驚きました。密閉箱のチューニングは楽しいです。

  まず最初の試聴用音源は、いつもの様に「WOOD / Brian Bromberg」の第1曲目の「The Saga of Harrison Crabfeathers(96 kHz/24bit)」です。 最初から音量レベルを上げてみました。 我家のオーディオルームは50Hz辺りに定在波のディップがあるのですが、それでも50Hz以下の低域が以前よりさらに重量感を増して、ベース・ソロのソリッドな低音が床を這って伝わって来る感覚があります。我が家のオーディオルームの床は、200ミリの基礎コンクリートの上に直接フローリングを貼り付けているので、構造上「低音が床を伝わって来る」という床鳴りはないはずですが、聴感上は足の裏に伝わる気がします。約10年間使っていたRey Audio RM-6Vでも、この様な感覚はなかったので、F特のデータで見る以上に低い周波数が再生されている、という印象です。 

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WOOD / Brian Bromberg

 2番目も低域試聴用の「Homage to Duke / Dave Grusin(44.1 kHz/16bit)」を聴いてみました。 1990年代の発売時に購入した年代モノの音源ですが、今でも低域試聴用として使っています。 リーダーのデイブ・グルーシンが敬愛するジャズの巨人デューク・エリントンに捧げたアルバムとのことで、エリントン楽団の定番曲が演奏されています。 その中で第8曲目にある名曲「C-Jam Blues」は、前述ブライアン・ブロンバーグがエレキ・ベースを演奏していて、ウッド・ベースとは趣の異なるソリッドでクールなエレキ・ベースの音がどの様に再生されるか、この曲は低域試聴用として使えます。 以前は聴いたことがなかった「より重量感の増した」低域になったことが一聴して分かる、ソリッドなエレキ・ベースの音が楽しめました。

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Homage to Duke / Dave Grusin

 試聴用音源3番目は「Another Time / Bill Evans(176 kHz/24bit)」です。これはライブ録音なので聴衆の拍手などが聞こえ、音質云々を抜きにしてジャズそのものを楽しめるアルバムです。 今回は低域の試聴用として、この中の第3曲目にある「Who Can I Turn To」を聴いてみます。 聴きどころは、2分10秒辺りから始まるエディ・ゴメスのベースソロです。かの歴史的なビル・エバンス・トリオの一翼を担ったスコット・ラファロ夭折の後、後継者として21歳で加入し12年間に渡って在籍することになる若きエディ・ゴメスのベース演奏は一聴の価値があります。このアルバムはいわゆる「オン・マイク」な録音なのですが、エディ・ゴメス特有の左手の弦がバチバチいうエッジの立ったサウンドでなく、ベースの胴鳴りの重量感がよく録られていて、今回の吸音材の調整の効果がはっきり確認できました。

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Another Time / Bill Evans

 次は「Soul Station / Hank Mobley(96 kHz/24bit)」、これは典型的なハードバップのアルバムで、オーディオ的な音の解像度や定位等を言う前に、1960年当時のジャズの熱い雰囲気やエネルギーがうまく再現されるかどうか、聴いていてハードバップが楽しめるかどうか、自分の判断基準として使っています。第2曲目の「This I dig of you」を聴いてみました。

 以前の吸音材フル充填した状態では、いわゆる「少し冷めた真面目なジャズ」でしたが、今回の改善によって、ハードバップ全盛期の熱い雰囲気がみごとに再生できることが分かりました。 昔、毎日の様にブルーノートのLPを聴いていた頃の、自分のJBL D130+075 システムのサウンドはこんな感じだったな、と思い出させる様な音に少し近づけた気がします。

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Soul Station / Hank Mobley

 ジャズの熱い雰囲気やエネルギーが良く再生できる様にはなっても、交響曲室内楽のヴァイオリンまでジャズっぽく荒々しくなっては困ります。自分がクラシックを聴く時は、ゆったりと柔らかく静かな音で音楽を楽しめればそれで十分、無理をしてまでハイエンドな音質を狙うことは望まないのですが、今回の吸音材の調整がどの様に影響するのか、自分のクラシック試聴用のアルバムを聴いてみました。 

 チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲が好きで、演奏者の異なるハイレゾ音源は複数持っています。この「Maxim Vengerov / Claudio Abbado / Berliner Philharmoniker(176 kHz/24bit)」はメンツが好きで演奏も素晴らしいのですが、ハイレゾ音源にもかかわらず高域が少々耳に付くので、DEQXの時代は高域を少し絞った右肩下がり特性の「Classic用EQ」で聴いていました。 もし今回これが綺麗に再生できる様になったら素晴らしいのだが、、、と試聴してみました。 オーディオ界では昔から「低域を改善すると中高域も良くなる」と言われて来ましたが、今回は久しぶりにそれを実感しました。 以前の様な耳に付く高音が改善され、ヴァイオリンの高域のツヤも心地よく再生されながら、オーケストラのFF時の沈み込む様な低域も重量感があります。 TRINNOVには、測定データに基づいて最適化された5種類のプリセット(Comfort、Natural、Neutral、Precision、Monitoring)が用意されています。 最高位のMonitoring は、F特、定位、群遅延など特性的にはベストですが、音がキツく冷たくなる傾向があり、我が家では今までクラシック鑑賞には不向きでした。 以前は Precision や Monitoring は高音が耳に付いてキツいので、一番耳障りの良い最下位の Comfort ばかりで聴いていたのですが、今回の改善で、Precision辺りでもクラシックを十分に楽しめる様になったのは大きな収穫でした。

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Claudio Abbado – Tchaikovsky Violin Concertos

 いつもの様に、この「Boston Symphony Chamber Players(192 kHz/24bit)」がうまく鳴れば、自分のクラシック再生はもう十分満足、という試聴(確認)用音源です。 前述の様に、今までは耳障りの良い最下位の Comfort ばかりで聴いていたこのアルバムも、今回からは中間的な Neutral やさらに高解像度の Precision でも楽しめる様になったことが確認できました。

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Boston Symphony Chamber Players

  最後に「打ち込み系サウンド」でのチェック用として、もう30年も前から使っている「Thriller / Michael Jackson(96 kHz/24bit)」を聴いてみました。以前は通常のCDでしたが、PCオーディオを始めた頃からハイレゾ音源にしました。 CD音源と比較すると、打ち込み系サウンド特有の迫力はなくなりましたが、マイケル・ジャクソンが声を発する直前に息を吸い込む臨場感は格段に向上しています。 いつも最初に聴き始める第6曲目の「Billie Jean」は、今回の吸音材の調整によって「ドスッ」という最初の低域パルス音が「重量感と迫力」を増したことが一聴して分かりました。

唯一気になる点としては、マイケルの声が以前より、ほんの少しクリアでない様に聴こえます。誰に聴かせても分からないであろう、いつも聴いている自分にしか気が付かない些細な違いかも知れません。 DEQX HDP-4の時と比較すると、クロスオーバーは同じ350Hzでも、TRINNOVはスロープが最大「24 dB/oct.」までなので、TD-4001とTL-1601bウーファーのオーバーラップが大きい、これが原因かも知れません。もうしばらくTRINNOVの調整を研究し、どうしても納得いかなければ、いよいよAccuphase DF-65を購入して「96 dB/oct.」を試してみるつもりです。

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Thriller / Michael Jackson

 最終的な確認として、リヤ・バッフルに手を当ててみると「ドスッ」という低域パルス音の衝撃によって、多少なりとも振動が感じられます。 箱鳴りを抑える対策設計として、フロント・バッフルとリヤ・バッフルを「直径30ミリ、全長650ミリの真鍮棒」8本で連結してあるのですが、8本合計32kgの真鍮棒の重量と42ミリ厚のロシアン・バーチ材でもウーファーからの衝撃に対して、多少なりとも振動が抑えられていないという状態、これは意外でした。 

しかし、天板と底板と側板にほとんど振動を感じられません。もしリヤ・バッフルに感じられる振動が、エンクロージャー内部の「空気の疎密波」に起因する振動だとすれば、天板、底板、側板にも同様に振動があるはずですが、これがない現状から推察すると、原因はウーファーのダイアフラム (117gr) の反力で奥行き方向にのみ発生しているものと考えられます。前後バッフルは板厚方向の弱い方向に振動衝撃を受けて振動しますが、天板、底板、側板はウーファーからの衝撃振動と同方向ですので、前後バッフルと異なり厚み方向の振動は極小となっている、と考察できます。

以上の考察から、エンクロージャーの強度については、まず現時点では合格とし、もうしばらく試聴を繰り返してチェックを続けるつもりです。